がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査|何がわかる?実際に治療につながる割合を解説
最終更新:2026年8月
本記事は、2018年および2019年に公開した「がんゲノム医療」「がん遺伝子パネル検査」に関する記事を統合し、現在の制度とエビデンスに基づいて全面的に更新したものである。
「がん遺伝子パネル検査を受ければ、自分のがんに合う薬が見つかるのだろうか」
がんゲノム医療について調べている人にとって、最も気になるのはこの点ではないだろうか。
日本では2019年6月に一部のがん遺伝子パネル検査が保険診療となり、その後、検査は広く行われるようになった。C-CAT(がんゲノム情報管理センター)への登録数は、2026年4月末までに13万例を超えている 1)。
しかし、がん遺伝子パネル検査について理解するうえでは、
「遺伝子の変化が見つかること」
「その変化に対する治療薬の候補が見つかること」
「実際にその治療を受けられること」
を分けて考える必要がある。
2026年に報告された国内54,185例の大規模解析では、治療標的となり得る遺伝子異常は72.7%の患者で認められた一方、検査結果に基づいて新たに標的治療を受けた患者は8.0%であった 2)。
この大きな差は何を意味するのだろうか。
本記事では、がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の基本から、実際にどの程度治療につながっているのかまで、現在のエビデンスをもとに整理する。
まず結論:がん遺伝子パネル検査について知っておきたいこと
現在のがんゲノム医療を簡潔にまとめると、以下のようになる。
- がん遺伝子パネル検査は、多数のがん関連遺伝子を一度に調べ、治療につながる手掛かりを探す検査である
- がん組織を用いる検査のほか、検査によっては血液を用いるものもある
- 固形がんでは、保険診療で受けられるのは原則として標準治療がない、または標準治療の終了が見込まれる患者である
- 遺伝子異常が見つかっても、それに対応する薬を実際に使用できるとは限らない
- 国内54,185例の解析では、治療標的となり得る遺伝子異常は72.7%で認められたが、検査を契機に新たな標的治療を受けた患者は8.0%であった
- 一方、この割合は2019~2020年の5.5%から2023~2024年には10.0%へ上昇しており、治療につながる機会は増えている
- 検査によって、遺伝性腫瘍の可能性が明らかになる場合もある
つまり、「検査をすれば自分に合った薬が見つかる検査」ではなく、「標準治療以外の治療選択肢を探すための重要な手段の一つ」と考えるのが適切である。
がんゲノム医療とは?
がんは、細胞にさまざまな遺伝子の変化が蓄積することで発生する。
同じ「胃がん」「肺がん」「大腸がん」であっても、すべての患者が同じ遺伝子異常を持っているわけではない。
一方、異なる臓器のがんであっても、共通した遺伝子異常を持つことがある。
そこで、がん細胞にどのような遺伝子変化が生じているかを調べ、その情報を治療選択などに利用するのが、がんゲノム医療である 3)。
ここで注意したいのは、「がんゲノム医療」と「遺伝子を調べて薬を選ぶ治療」が完全に同じ意味ではないことである。
例えば、胃がんでHER2を調べたり、肺がんでEGFRなどを調べたりする検査は、すでに標準治療の中で広く行われている。
このように特定の薬剤を使用できるか判断するために、1つまたはいくつかの遺伝子を調べる検査と、多数の遺伝子をまとめて調べるがん遺伝子パネル検査(comprehensive genomic profiling:CGP)は区別して考える必要がある 3)。
がん遺伝子パネル検査とは?
がん遺伝子パネル検査では、患者のがん組織や血液などからDNAを解析し、数十から数百のがん関連遺伝子を一度に調べる。
解析には、次世代シーケンサー(next-generation sequencer:NGS)と呼ばれる技術が用いられる。
検査によって調べられる内容は異なるが、
- 遺伝子変異
- 遺伝子増幅
- 遺伝子融合
- マイクロサテライト不安定性(MSI)
- 腫瘍遺伝子変異量(TMB)
など、治療選択に関係するさまざまな情報が得られる場合がある。
ただし、検査結果を見て機械的に薬が決まるわけではない。
遺伝子変化の意味、対応する薬剤の有無、臨床試験、これまでの治療歴などを含め、専門家によるエキスパートパネルで検討し、その結果をもとに担当医が患者へ治療選択肢を説明する仕組みとなっている 4)。
がん遺伝子パネル検査では何がわかる?
検査結果から得られる情報は、大きくいくつかに分けられる。
1.現在使用できる治療薬につながる遺伝子異常
見つかった遺伝子異常に対して、すでにそのがんで承認されている薬が存在する場合がある。
ただし、このような遺伝子異常の一部は、通常の診療で行われるコンパニオン診断などによって、パネル検査より前に調べられていることも多い。
2.別のがんなどで使われている薬につながる可能性
遺伝子異常に対応する薬が存在しても、その患者のがんには保険適用されていない場合がある。
その場合、治験、臨床試験、患者申出療養などが治療への選択肢となることがある。
3.開発中の薬や臨床試験
標的となる遺伝子異常に対する薬剤が研究開発中であれば、条件を満たした場合に治験への参加が検討できることがある。
4.遺伝性腫瘍に関する情報
がん遺伝子パネル検査では、がん細胞だけに生じた変化だけでなく、生まれつき持っている遺伝子変化が疑われる場合がある。
こうした変化は本人だけでなく家族にも関係する可能性があるため、必要に応じて遺伝カウンセリングや確認のための検査が検討される 4)。
したがって、パネル検査には「薬を探す」以外の意味もある。
実際にはどのくらい治療につながるのか?
がん遺伝子パネル検査について最も重要な点の一つである。
2026年、C-CATに登録された54,185例の固形がん患者を解析した日本の大規模研究がNature Medicineに報告された 2)。
解析の結果、
治療標的となり得る遺伝子異常が認められた患者:72.7%
であった。
一見すると、かなり高い割合に見える。
しかし、
がん遺伝子パネル検査の結果に基づいて、新たに標的治療を受けた患者:8.0%
であった。
つまり、
治療標的となる遺伝子異常が見つかることと、実際にその異常を標的とした治療を受けられることには大きな隔たりがある。
これが現在のがんゲノム医療を理解するうえで非常に重要な点である。
「72.7%に異常が見つかるのに、治療できるのは8%」なのはなぜ?
この数字だけを見ると、「遺伝子異常は見つかるのに、ほとんど治療できない」と感じるかもしれない。
しかし、少し慎重な解釈が必要である。
まず、72.7%という数字には、日本ですぐ保険診療として使用できる薬がある遺伝子異常だけが含まれているわけではない。
海外で承認されている薬や、臨床試験などで有効性が示されている薬の標的となる異常も含め、「治療標的となり得る遺伝子異常」として評価されている。
一方、8.0%は、パネル検査を受けたことを契機として新たに標的治療が導入された割合である。
したがって、「残り92%では検査が無意味であった」という意味ではない。
実際に治療まで進めない理由には、
- 対応する薬が国内で承認されていない
- そのがん種には薬の適応がない
- 適切な治験がない
- 治験施設が遠い
- 治験の参加条件を満たさない
- 病状や全身状態から新しい治療を受けることが難しい
- パネル検査以前の通常診療ですでに対応する治療を受けている
など、さまざまな要因がある。
したがって、8.0%という数字だけでパネル検査の有用性を判断することも適切ではない。
一方で、検査を受ければ高い確率で新しい治療法が見つかる、と期待することも現状とは異なる。
治療につながる割合は少しずつ増えている
同じ54,185例の解析では、パネル検査を契機に標的治療を受けた割合は、
- 2019~2020年:5.5%
- 2021~2022年:7.3%
- 2023~2024年:10.0%
と増加していた 2)。
新しい分子標的薬の開発や承認が進み、遺伝子異常に対応できる治療選択肢が増えていることが背景にあると考えられる。
また、標的治療へ進める割合には、がん種によって大きな違いがある。
同研究では、
- 甲状腺がん:34.8%
- 非小細胞肺がん:20.3%
- 小細胞肺がん:20.1%
と比較的高い一方、
- 膵がん:1.3%
- 肝臓がん:1.8%
などでは低い結果であった 2)。
つまり、がん遺伝子パネル検査の有用性を「全がん共通の一つの数字」で評価することにも限界がある。
がん種によって、見つかりやすい遺伝子異常も、利用できる治療薬も大きく異なるためである。
膵がんでは、治療標的となり得る遺伝子異常自体は一定の割合で見つかる一方、実際にCGPを契機として標的治療へ進める患者は少ない。膵がんにおけるゲノム医療の実際については別記事で詳しく解説している。
がん遺伝子パネル検査を受けられるのはどのような人?
固形がんについて、保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けるためには、原則として、
標準治療がない、または標準治療の終了が見込まれること
などの条件を満たす必要がある 5)。
また、検査結果が出た後に治療を行える可能性があるかという観点から、全身状態なども考慮される。
そのため、
「がんと診断されたので、とりあえず最初にパネル検査を受ける」
という検査ではない。
固形がんでは、標準治療実施前は原則として保険診療でのCGPの対象とはならない 5)。
なお、現在は造血器腫瘍およびその類縁疾患についても保険診療によるがん遺伝子パネル検査が導入されているが、固形がんとは検査の位置づけが異なるため、本記事では主に固形がんについて解説している。
検査は組織で行う?血液でもできる?
がん遺伝子パネル検査は、基本的には手術や生検などで採取されたがん組織を用いて行われる。
一方、現在は血液中に存在する腫瘍由来DNAを解析する血液を用いたがんゲノムプロファイリング検査も保険診療で利用できる。
そのため、保存されている組織の量や状態などによって、どの検査を行うかが検討される。
検査によって特徴や解析できる内容が異なるため、単純に「組織検査と血液検査のどちらが優れている」と考えるものではない。
検査費用はどのくらい?
2019年に保険診療が開始された当初と比べ、診療報酬の仕組みも変更されている。
2026年度の診療報酬では、固形腫瘍に対するがんゲノムプロファイリング検査は、腫瘍組織を用いるもの、血液を用いるもののいずれも44,000点と設定されている 6)。
1点は10円であるため、医療費としては44万円相当になる。
ただし、患者が44万円をそのまま負担するわけではない。
実際の自己負担額は年齢や保険の自己負担割合などによって異なり、高額療養費制度の対象になる場合もある。また、検査以外の診療費などが加わる場合もあるため、実際の負担額については受診する医療機関で確認する必要がある。
どこで検査を受けられる?
保険診療としてのがん遺伝子パネル検査は、国が定めたがんゲノム医療提供体制の中で行われる。
2026年8月1日時点では、
- がんゲノム医療中核拠点病院:13施設
- がんゲノム医療拠点病院:32施設
- がんゲノム医療連携病院:258施設
が指定・公表されている 7)。
施設数は変更されるため、本記事に医療機関名の一覧を掲載するのではなく、受検を検討する場合には厚生労働省またはC-CATの最新の施設一覧を確認することを勧める。
現在通院している病院が該当施設でなくても、条件を満たせば指定医療機関へ紹介してもらえる場合があるため、まず担当医に相談するのがよい。
がん遺伝子パネル検査は受けた方がよいのか?
これは一律に答えられる問題ではない。
がん遺伝子パネル検査の最大の利点は、通常の検査では分からなかった治療標的を見つけ、標準治療以外の新しい治療へつながる可能性を広げられることにある。
実際、日本の大規模な実臨床データでも、パネル検査結果に基づく標的治療が導入される患者は存在し、その割合は増加している 2)。
一方で、検査を受けても、
新しい治療が見つからない可能性の方が現時点では高い。
また、治療候補が見つかっても、その薬が国内未承認、適応外、あるいは治験中であるため、実際には使用できない場合もある。
したがって、
「検査を受ければ自分だけに効く薬が見つかる」
と期待して受ける検査ではない。
むしろ、
「標準治療が限られてきた段階で、腫瘍の遺伝子情報を広く調べ、残されている治療の可能性を探す」
という位置づけで考えるのが適切である。
がんゲノム医療は「検査をする医療」から「結果を治療につなげる医療」へ
2019年にがん遺伝子パネル検査の保険診療が始まった当初は、「検査を受けられるか」が大きな関心事であった。
現在は多数の患者データが蓄積され、課題は**「多くの遺伝子を調べること」から「見つかった遺伝子異常を実際の治療へどうつなげるか」へ移っている。**
新たな分子標的薬の開発、がん種を問わず使用できる治療薬の増加、治験へのアクセス改善などが進めば、遺伝子情報を治療へ結びつけられる患者は今後さらに増える可能性がある。
一方、がん遺伝子パネル検査は万能な検査ではない。何が分かり、何が分からないのか、そして検査結果がどの程度治療につながる可能性があるのかを理解したうえで、担当医と相談して受検を検討することが重要である。
参考文献・資料
- 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT).C-CAT登録状況.2026年確認。
- Saito Y, et al. Real-world clinical utility of comprehensive genomic profiling in advanced solid tumors. Nature Medicine. 2026. doi:10.1038/s41591-025-04086-8.
- 国立がん研究センター がん情報サービス.がんゲノム医療.
- 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT).がん遺伝子パネル検査とは/C-CATの取り組み.
- 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT).検査を受けたいときは.
- 厚生労働省.診療報酬情報提供サービス D006-19 がんゲノムプロファイリング検査.2026年度.
- 厚生労働省.がん診療連携拠点病院等.2026年8月1日時点.
この記事について
本記事は、公的機関の情報および医学論文をもとに一般向けに解説したものであり、個々の患者に対してがん遺伝子パネル検査や特定の治療を推奨するものではない。検査の対象や適切な実施時期、検査結果に基づく治療選択は、がんの種類、治療歴、全身状態などによって異なるため、実際の判断については担当医と相談する必要がある。