私の父の胃癌は印環細胞癌だった。

印環細胞癌の確定診断から病院を選ぶまでの経緯今回は、ステージ4の胃がんと確定診断に至った状況をまとめる。 胃がんと気づく前に起きていた、一見胃がんとの関連が見えない症状は下記...

診断された当初、ネットで「印環細胞癌」と検索すると、「印環細胞癌=スキルス胃癌」のように読める記事がいくつも出てきた。

そのため、母は「父はスキルス胃癌なのだ」と思っていた。

もちろん、印環細胞癌とスキルス胃癌には関係がある。実際、スキルス胃癌では印環細胞癌や低分化腺癌が関わることが多い。

ただし、印環細胞癌とスキルス胃癌は同じ意味ではない。

ここを混同すると、冷静な判断が難しくなってしまう。

今回は、印環細胞癌とスキルス胃癌の違いについて、できるだけ簡単に整理しておきたいと思う。

また、私たち家族も経験したが、患者やその家族が特に気になりやすい「ステージ」「腹膜播種」との関係についても触れておく。

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この記事を書いた人:ひろかず

医学研究者/大腸がん経験者
自身や家族の闘病経験と医学研究の視点から、がんに関する情報を患者さんや家族にも伝わる言葉で書いています。

※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療の判断は必ず主治医にご相談ください。

この記事の要点

  • 印環細胞癌は、顕微鏡で見たときの「組織型」の名前。
  • スキルス胃癌は、胃壁が硬く厚くなる「胃癌の広がり方・見た目」を表す言葉。
  • 印環細胞癌だからといって、必ずスキルス胃癌とは限らない。
  • スキルス胃癌だからといって、必ず最初からステージ4とも限らない。
  • 治療方針を考えるうえでは、組織型、ステージ、腹膜播種、転移、全身状態、バイオマーカー検査などを総合して確認する必要がある。

印環細胞癌とスキルス胃癌、どう違う?

印環細胞癌とスキルス胃癌は、それぞれ異なる視点から胃癌を表している名前だ。

専門的に言えば、印環細胞癌は組織型分類名であり、スキルス胃癌は肉眼的分類、あるいは胃癌の広がり方を表す言葉に近い。

もっとざっくり言えば、以下のように考えるとわかりやすい。

  • 印環細胞癌:顕微鏡で見たときの「がん細胞の顔つき」
  • スキルス胃癌:胃全体で見たときの「がんの広がり方」

つまり、見ている場所が違う。

印環細胞癌は、病理医が顕微鏡で細胞を見たときの分類。

一方で、スキルス胃癌は、胃の壁がどのように硬く厚くなり、がんがどのように広がっているかという分類だ。

そのため、スキルス胃癌の中に印環細胞癌が含まれることはあるが、印環細胞癌だからといって必ずスキルス胃癌だというわけではない。

スキルス胃癌はとても有名ながんであり、ドラマなどでもよく登場するため耳馴染みのある方が多いと思う。

印環細胞癌=スキルス胃癌、といったネット情報を見かけると不安になる人は多いと思う。

しかし、まずは病理組織型の話なのか、胃全体の進み方の話なのかを分けて考える必要がある。

印環細胞癌とは

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胃癌の病理組織型分類の1つだ。

光学顕微鏡で観察すると、粘液を豊富に含む袋(小胞)が細胞の核を隅っこに押し込でいるため、印環(印鑑付きの指輪)のように見える。

そのため印環細胞癌と命名されている。

病理像としては非常に特徴的なので、病理学を少しでもかじった人は教科書や実際の標本などで一度は必ず目にしているといっても過言ではない癌だ。

印環細胞癌を含む胃癌の組織型分類

胃癌の組織型は、ざっくり分けると「分化型」と「未分化型」に分けられる。

簡単に言えば、分化型は比較的正常な胃の腺構造に似た形を残している癌で、未分化型は正常構造から離れ、ばらばらに広がりやすい性質を持つ癌だ。

一般的には以下のように整理される。

  • 分化型
    • 乳頭腺癌
    • 管状腺癌:高分化型・中分化型
  • 未分化型
    • 低分化腺癌
    • 印環細胞癌
    • 粘液癌
  • 特殊型
    • 腺扁平上皮癌
    • 扁平上皮癌
    • 神経内分泌腫瘍など

印環細胞癌は、一般に未分化型に分類される。

ただし、未分化型という名前だけで過度に恐れる必要はない。

胃癌では、組織型だけでなく、がんが胃の壁のどこまで深く進んでいるか、リンパ節転移があるか、遠隔転移や腹膜播種があるかが非常に重要になる。

印環細胞癌の特徴

一般論として、分化型癌よりも未分化型癌の方が、正常組織から離れた形態を示し、浸潤性が問題になりやすい。

ただし、印環細胞癌には少し特殊な面がある。

それは、早期胃癌として見つかった場合と、進行胃癌として見つかった場合で、かなり印象が変わるという点だ。

早期胃癌の状態

早期の印環細胞癌では、がんが粘膜内にとどまっている段階で発見されることがある。

この場合、条件を満たせば内視鏡治療や手術によって根治を目指せる可能性がある。

つまり、印環細胞癌という名前だけで「絶対に悪い」と決めつけるのは正確ではない。

進行胃癌の状態

一方で、進行した状態で見つかった印環細胞癌では、低分化腺癌と混在していたり、胃壁の深い部分へ浸潤していたりすることがある。

このような場合、腹膜播種やリンパ節転移などが問題になることがあり、治療方針も大きく変わる。

つまり、印環細胞癌は、どの段階で見つかったかによって意味合いが大きく変わる癌だと言える。

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父が印環細胞癌と診断され、病院を選ぶまでの経緯はこちらにまとめている。

スキルス胃癌とは

f:id:hirokazu-y:20180306202534j:imageスキルス胃癌とは、癌細胞が胃壁の中で広がっていくことで、胃壁が著しく厚く、硬くなってしまった胃癌のことを指す。

「スキルス」という言葉は、硬い腫瘍という意味のスキロスというギリシャ語を語源としており、その見た目、すなわち肉眼的な分類の一つと言える。

スキルス胃癌を含む進行胃癌の肉眼分類

進行胃癌の肉眼分類としてよく使われるものに、ボールマン分類がある。

大まかには以下のように分類される。

  • 0型:表在型、いわゆる早期癌
  • 1型:腫瘤型
  • 2型:潰瘍限局型
  • 3型:潰瘍浸潤型
  • 4型:びまん浸潤型
  • 5型:1〜4型のいずれにも当てはまらないもの

スキルス胃癌は、このうち4型、びまん浸潤型胃癌として扱われることが多い。

ここで注意が必要なのは、これは顕微鏡で見た細胞の分類ではなく、胃全体で見たときの癌の広がり方の分類だという点である。

スキルス胃癌の特徴

スキルス胃癌は、癌が大きな塊として盛り上がるというより、胃の壁の中をしみ込むように広がっていく。

そのため、胃壁がだんだん厚く硬くなり、胃の伸び縮みが悪くなる。

また、粘膜表面に明らかな隆起や潰瘍を作りにくいことがあり、内視鏡で見つけにくい場合がある。

この「見つけにくさ」が、スキルス胃癌の厄介な点の1つだ。

スキルス胃癌はなぜ悪い

スキルス胃癌が悪性度の高い胃癌として語られることが多い理由はいくつかある。

まず、スキルス胃癌では、低分化腺癌や印環細胞癌といった未分化型の癌が関わることが多い。

また、胃の壁の中を広く浸潤するため、発見された時点で進行していることがある。

さらに重要なのが、腹膜播種との関係だ。

スキルス胃癌では、癌細胞が胃の外側へ進み、お腹の中に散らばる腹膜播種を伴うことがある。

腹膜播種があると、胃だけを切除しても、お腹の中に散らばった癌細胞をすべて取り除くことが難しくなる。

そのため、手術だけで治すことが難しくなり、薬物療法や症状緩和を含めた治療方針が検討されることになる。

腹膜播種についてはこちらもどうぞ

腹膜播種でなぜ腹水がたまるのか|胃がんで手術が難しくなる理由私の父は、腹水を伴う進行胃癌だった。 胃癌と診断された時点で腹水がかなり溜まっており、腹水の細胞診で印環細胞癌の存在が確認されてい...

腹膜播種とは何か、なぜ腹水がたまるのか、なぜ腹膜播種を伴う胃癌では手術が難しくなるのかについては、こちらの記事で詳しくまとめている。

ちなみに、組織型分類とスキルス胃癌との関係で注意が必要なのは、

低分化型癌や印環細胞癌であれば必ずスキルス胃がんになるわけではないし、分化型であれば絶対にスキルス胃がんにならないというわけでもない点である。

あくまでもスキルス胃癌というのは肉眼的な分類名である。

  • 印環細胞癌:顕微鏡で見た癌細胞の分類
  • スキルス胃癌:胃全体で見た癌の広がり方の分類

この2つをごちゃ混ぜにすると、必要以上に混乱してしまう。

この点は、患者や家族が診断内容を理解するうえでかなり大事だと思う。

スキルス胃癌なら必ずステージ4なのか

もう1つ混同されやすいのが、スキルス胃癌とステージの関係だ。

スキルス胃癌という言葉には、どうしても強いインパクトがある。

そのため、「スキルス胃癌=ステージ4」と思ってしまう人も少なくないと思う。

たしかに、スキルス胃癌は進行した状態で見つかることが多く、腹膜播種を伴うこともある。

しかし、スキルス胃癌だから必ずステージ4というわけではない。

胃癌のステージは、主に以下の要素によって決まる。

  • 癌が胃の壁のどこまで深く進んでいるか
  • リンパ節転移があるか
  • 遠隔転移があるか
  • 腹膜播種や腹水細胞診の結果はどうか

つまり、スキルス胃癌という名前だけでステージが決まるわけではない。

癌細胞が胃の外へ出ておらず、明らかな遠隔転移がない場合には、手術を含めた治療が検討されることもある。

一方で、腹膜播種や遠隔転移が確認された場合には、治療方針は大きく変わる。

大切なのは、名前に振り回されず、自分、あるいは家族の癌が今どの状態なのかを確認することだ。

どの分類を一番気にするべきか

組織型分類も、肉眼分類も、もちろん診断上は重要だ。

ただし、治療方針を考えるうえで特に重要なのは、今その癌がどの段階にあるのかである。

つまり、ステージや転移の有無だ。

さらに進行胃癌や再発胃癌では、近年はバイオマーカー検査も治療選択に関わることがある。

HER2、MSI/MMR、PD-L1 CPS、CLDN18.2などの検査が行われることがあり、薬物療法を選ぶうえで参考にされる。

胃がんの治療方針やバイオマーカー検査については、日本胃癌学会の胃癌治療ガイドラインや、国立がん研究センター がん情報サービスの胃がん情報も参考になる。

そのため、印環細胞癌かどうか、スキルス胃癌かどうかだけでなく、以下を総合して確認する必要がある。

  • 現在のステージ
  • 胃壁への深達度
  • リンパ節転移の有無
  • 遠隔転移の有無
  • 腹膜播種の有無
  • 腹水細胞診の結果
  • 手術が可能な状態か
  • 薬物療法の候補
  • バイオマーカー検査の結果
  • 本人の体力や栄養状態

胃癌の名前に振り回されるよりも、治療方針に関わる情報を1つずつ冷静に集めることが重要だと思う。

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