最終更新:2026年8月
本記事は、2018年および2020年に公開した胃がんとオプジーボに関する記事を統合し、現在のエビデンスに基づいて全面的に更新したものである。

胃がんの治療薬として「オプジーボ」という名前を聞いたことがある人は多いと思う。

オプジーボ(一般名:ニボルマブ)が日本で進行・再発胃がんに使用されるようになった当初は、複数の抗がん剤治療を受けた後に使う「3次治療以降」の薬であった。

しかし、その後の臨床試験によって治療上の位置づけは大きく変化している。

現在では、HER2陰性の治癒切除不能な進行・再発胃がんに対して、一次治療から化学療法とオプジーボを併用する治療が重要な選択肢の一つとなっている。

一方で、すべての胃がん患者で同じ程度の上乗せ効果が期待できるわけではなく、PD-L1などのバイオマーカーも含めて治療を考える必要がある。日本胃癌学会も、HER2陰性胃がんの一次治療ではPD-L1発現を可能な限り評価することが望ましいとしている。

本記事では、

  • オプジーボとはどのような薬なのか
  • 現在は胃がん治療のどこで使われるのか
  • 実際にどの程度の効果が示されているのか
  • PD-L1と効果にはどのような関係があるのか
  • どのような副作用に注意する必要があるのか

について、主な臨床試験をもとに解説する。

まず結論:胃がんに対するオプジーボについて知っておきたいこと

現在のエビデンスを簡潔にまとめると、以下のようになる。

  • オプジーボはPD-1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬である
  • HER2陰性の切除不能進行・再発胃がんでは、一次治療から化学療法と併用して使われる
  • CheckMate 649試験では、特にPD-L1 CPS 5以上の患者群で生存期間の延長が明確に示された
  • 5年間の追跡結果でも、一部の患者では長期間にわたり効果が持続している
  • 一方、PD-L1 CPSが低い患者では上乗せ効果が小さい可能性があり、治療選択には他のバイオマーカーも重要である
  • 免疫を活性化する薬であるため、通常の抗がん剤とは異なる免疫関連有害事象に注意が必要である

2026年現在の進行胃がん治療では、オプジーボだけでなく、HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどの検査結果を組み合わせて治療を選択する時代になっている。

オプジーボ(ニボルマブ)とは?

オプジーボは商品名であり、一般名をニボルマブ(nivolumab)という。

「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる薬の一つである。

私たちの免疫を担当するT細胞には、免疫反応が過剰にならないように「ブレーキ」をかける仕組みが備わっている。その一つがPD-1である。

がん細胞は、この仕組みを利用してT細胞からの攻撃を逃れることがある。

オプジーボはT細胞表面のPD-1に結合し、この抑制シグナルを遮断する。その結果、T細胞による抗腫瘍免疫を再び働きやすくする。

つまり、一般的な抗がん剤のようにオプジーボそのものが直接がん細胞を傷害する薬ではない。 免疫ががん細胞を攻撃する力を回復させることによって抗腫瘍効果を発揮する薬である。

胃がんではオプジーボをいつ使う?

ここは、2017~2020年頃と現在で最も大きく変わった部分である。

当初は「3次治療以降」の薬であった

胃がんに対するオプジーボの有効性を最初に明確に示したのがATTRACTION-2試験である。

この試験の対象は、すでに2種類以上の化学療法を受けても病気が進行した、治癒切除不能な進行・再発胃がん・胃食道接合部がん患者493人であった。

そのため、オプジーボは当初、主に3次治療以降の単剤療法として使用されていた。

現在は一次治療から使われる

その後、大きく状況を変えたのがCheckMate 649試験である。

化学療法をまだ受けていないHER2陰性の進行胃がんなどを対象に、

オプジーボ+化学療法

化学療法のみ

が比較された。

その結果、特にPD-L1 CPS 5以上の患者群で、オプジーボを追加することによる全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)の延長が示された。

これを受け、現在はHER2陰性の切除不能進行・再発胃がんに対して、一次治療からオプジーボと化学療法を併用する治療が用いられている。

ただし、2026年現在は治療選択肢がさらに増えている。

HER2陰性胃がんの一次治療では、ニボルマブ以外の免疫チェックポイント阻害薬も選択肢となっているほか、CLDN18.2陽性であればゾルベツキシマブも治療選択に関係する。

したがって、現在は「進行胃がんだからオプジーボ」という単純な治療選択ではない。

オプジーボは胃がんにどのくらい効くのか?

ここでは、治療時期の異なる代表的な臨床試験を見ていく。

CheckMate 649試験:一次治療での効果

現在のオプジーボの位置づけを理解するうえで最も重要なのがCheckMate 649試験である。

HER2陰性の進行胃がん、胃食道接合部がんなど1,581人を対象に、オプジーボ+化学療法と化学療法単独が比較された。

PD-L1 CPS 5以上の患者では、

オプジーボ+化学療法 化学療法
全生存期間中央値 14.39か月 11.10か月
無増悪生存期間中央値 7.69か月 6.05か月

であった。

死亡リスクを示すハザード比は0.71であり、オプジーボ+化学療法群で統計学的に有意な生存期間の延長が示された。

ここで重要なのは、「生存期間中央値が約3か月延びた」とだけ解釈しないことである。

免疫チェックポイント阻害薬の特徴の一つとして、一部の患者では長期間にわたり効果が持続することがある。

5年後まで効果が続く患者もいる

2026年には、CheckMate 649試験の5年間の追跡結果が報告されている。

PD-L1 CPS 5以上の患者群における5年全生存率は、

  • オプジーボ+化学療法:16%
  • 化学療法:6%

であった。

5年間追跡しても生存曲線の差が維持されており、オプジーボの追加による長期的な効果が一部の患者で持続することが示されている。

ただし、この16%という数字の解釈には注意が必要である。

CheckMate 649には胃がんだけでなく、胃食道接合部がんや食道腺がんの患者も含まれている。また、ここで示した数字はPD-L1 CPS 5以上の患者群における解析結果である。

したがって、

「オプジーボを使えば胃がん患者の16%が5年間生存する」

という意味ではない。

個々の患者の予後を、この数字だけから予測することはできない。

PD-L1が高いほどオプジーボは効きやすい?

現在は、この点を慎重に考える必要がある。

PD-L1の発現はCPS(Combined Positive Score)という指標で評価される。

CheckMate 649試験では、PD-L1 CPS別の探索的解析も行われている。

全生存期間に対するハザード比は、

  • CPS 5以上:0.70
  • CPS 1以上5未満:0.97
  • CPS 1未満:0.92

であった。

つまり、オプジーボを追加する効果はPD-L1 CPSが高い患者でより明確であり、CPSが低い患者では上乗せ効果が小さい傾向が認められている。

ただし、CPS 5未満の解析は探索的解析であり、この数字だけから「CPSが低ければオプジーボは効かない」と断定することはできない。

日本胃癌学会も、CPSによってニボルマブの上乗せ効果に違いが認められることから、HER2陰性胃がんでは可能な限りPD-L1検査を実施することが望ましいとしている。

これは、以前の記事で記載していた、

「PD-L1の発現解析は胃がんに対するオプジーボの効果予測マーカーとして有用ではない」

という結論から、大きく変わった点である。

当時のATTRACTION-2試験ではPD-L1の有無による明確な差が認められなかったが、その結果を現在の一次治療にそのまま当てはめることはできない。

以前のATTRACTION-2試験の結果はどう考えればよい?

ATTRACTION-2試験は現在でも重要な研究である。

ただし、対象となった患者は現在の一次治療とは大きく異なる。

2種類以上の化学療法を受けた後の患者を対象に、オプジーボ単独とプラセボが比較され、

  • オプジーボ:全生存期間中央値5.26か月
  • プラセボ:4.14か月

であり、死亡リスクはオプジーボによって有意に低下した。

1年生存率は、

  • オプジーボ:26.2%
  • プラセボ:10.9%

であった。

さらに2年間の追跡では、2年生存率は、

  • オプジーボ:10.6%
  • プラセボ:3.2%

であった。

この研究から特に重要なのは、平均的には治療効果が限定的であっても、オプジーボが効いた一部の患者では長期間効果が持続する可能性が示されたことである。

一方、これらの数字は3次治療以降のオプジーボ単剤療法における結果である。

現在の一次治療で行われる「オプジーボ+化学療法」の効果を考える際に、ATTRACTION-2の奏効率や2年生存率をそのまま当てはめることはできない。

ATTRACTION-4試験では結果が少し異なった

日本を含むアジアで行われたATTRACTION-4試験では、一次治療として、

オプジーボ+SOXまたはCapeOX

化学療法のみ

が比較された。

無増悪生存期間は、

  • オプジーボ+化学療法:10.45か月
  • 化学療法:8.34か月

であり、有意に延長した。

一方、全生存期間は、

  • オプジーボ+化学療法:17.45か月
  • 化学療法:17.15か月

であり、有意差は認められなかった。

CheckMate 649とATTRACTION-4では、患者背景、試験デザイン、その後に受けた治療などが異なるため、結果を単純に比較することはできない。

一つの研究だけではなく、複数の臨床試験を合わせて治療効果を判断することが重要である。

今はPD-L1だけではなく複数のバイオマーカーを調べる時代

現在の進行胃がんでは、治療開始前に腫瘍の性質を調べることが非常に重要になっている。

特に重要なのは、

  • HER2
  • PD-L1
  • CLDN18.2
  • MSI/MMR

である。

現在はこれらのバイオマーカーを適切に評価し、その結果を踏まえて治療を選択することが求められている。

したがって、

「オプジーボが使えるか?」

だけで治療を考えるより、

「自分の胃がんにはどのようなバイオマーカーがあり、どの治療の利益が最も期待できるのか?」

という視点が重要である。

これは、2018年にオプジーボが胃がんに登場した頃とは大きく異なる点である。

オプジーボの副作用

オプジーボは免疫のブレーキを解除する薬である。

そのため、過剰に活性化した免疫が正常な臓器まで攻撃することで、免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)と呼ばれる副作用が生じることがある。

代表的なものとして、

  • 間質性肺疾患
  • 大腸炎・重度の下痢
  • 肝炎・肝機能障害
  • 甲状腺機能異常
  • 下垂体・副腎機能障害
  • 1型糖尿病
  • 腎障害
  • 心筋炎
  • 重症筋無力症・筋炎
  • 神経障害
  • 重度の皮膚障害

などが挙げられる。

頻度の高い副作用だけに注意すればよいわけではない。

頻度は低くても、心筋炎、重症筋無力症、1型糖尿病など、急速に重症化する可能性のある副作用も存在する。

さらに重要なのは、オプジーボの投与終了後に免疫関連有害事象が現れる場合があるという点である。

治療中や治療終了後に、

  • 新しく息苦しくなった
  • 咳が続く
  • 強い下痢や腹痛がある
  • 強い倦怠感が出た
  • 筋力が低下した
  • まぶたが下がる
  • 強い口渇や多尿がある
  • 意識状態がおかしい

など、それまでになかった症状が現れた場合には、次回受診まで待たず、治療を受けている医療機関へ相談することが重要である。

「オプジーボは効く薬なのか?」への答え

オプジーボは、すべての胃がん患者に同じ程度の効果が期待できる薬ではない。

現在の一次治療では、特にPD-L1 CPSが高い患者で化学療法への上乗せ効果が明確に示されており、一部の患者では長期間にわたって効果が続くことも確認されている。

一方、現在の胃がん治療ではPD-L1だけでなく、HER2、CLDN18.2、MSI/MMRなども確認しながら治療を選択する。

したがって重要なのは、単に「オプジーボが効くか」ではなく、自分の胃がんではどの治療が最も利益を期待できるのかを、バイオマーカーも含めて考えることである。

参考文献

  1. 日本胃癌学会.胃癌治療ガイドライン 医師用 第7版.2025年3月.
  2. 日本胃癌学会.切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第3版.2026年7月.
  3. Janjigian YY, et al. First-line nivolumab plus chemotherapy versus chemotherapy alone for advanced gastric, gastro-oesophageal junction, and oesophageal adenocarcinoma: CheckMate 649. Lancet. 2021;398:27-40.
  4. Janjigian YY, et al. Nivolumab plus chemotherapy as first-line treatment for advanced gastric, gastroesophageal junction, and esophageal adenocarcinoma: 5-year follow-up results from CheckMate 649. Ann Oncol. 2026;37:787-797.
  5. Kang YK, et al. Nivolumab in patients with advanced gastric or gastro-oesophageal junction cancer refractory to two or more previous chemotherapy regimens (ATTRACTION-2). Lancet. 2017.
  6. Chen LT, et al. ATTRACTION-2: 2-year update data. Gastric Cancer. 2020.
  7. Kang YK, et al. Nivolumab plus chemotherapy versus placebo plus chemotherapy in untreated advanced gastric cancer (ATTRACTION-4). Lancet Oncol. 2022.
  8. PMDA.オプジーボ点滴静注 添付文書.2026年7月改訂.

この記事について
本記事は医学論文、診療ガイドライン、医薬品情報などをもとに一般向けに解説したものであり、個々の患者に対する治療の推奨を目的とするものではない。治療方針は病状や検査結果などによって異なるため、実際の治療については担当医と相談する必要がある。

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ひろかず
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